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税法条文を読む

 税務会計において判断に困ったとき、どのように調べていけばよいでしょうか。
 
 まず、1つの手法として考えられるのが、事例集などの実務参考書です。Q&A方式で書かれておれば、自分の疑問となる問題と近い事例を探して、答えを見つけるという方法がポピュラーだと思います。

 調べる方法のもう一つは、法律の条文から通達へ、順に辿っていくという方法です。これは、条文というものに拒絶反応を示す人が多く、実務上もあまり人気がありません。たしかに、どこに何が書いてあるのかわかりにくい上に、急いでいるときに文字をたくさん見るのは億劫です。

 しかし、案外、慣れればこれが簡単で役に立つのです。さらに、今後似たような事例を解釈する場合の判断がしやすくなったり、なんせ理屈が明解になりますから、改正があっても対応にさほど困らないなど、建設的なメリットもあると思います。

 今は六法を持っていなくても、世に出ている全法令(地方自治体の条例以下は無理ですが)を読むことが出来ます。

 総務省の運営する法令データ提供システムで法律と政令、施行規則まで見られます。

 税法の解釈通達については、国税庁の法令解釈通達目次から見ることが出来ます。

 では、実際どのように条文を見ていったらよいのでしょうか。

 まず、基本構造を知っておく必要があります。

 例えば、所得税法について調べたいとき、関連する法令・通達は「所得税法」、「所得税法施行令」、「所得税法施行規則」、「所得税基本通達」、そして「租税特別措置法」があります。

 「所得税法」は国会で立法された、基礎となる条文であり、それを具体的に施行するために行政機関が「施行令」として補完し(さらに下部機関が「施行規則」で補完し)、税務職員の解釈指針として「通達」が出されている、という構造になっているのです。「租税特別措置法」は所得税に限らず、あらゆる税の特例を定めています。

 条文を読む際も、この構造に従っていくとわかりやすいのです。


 所得税における簡単な例を出します。

 ある個人(日本の居住者と仮定)が、学生を下宿させ、食事を提供し、これについて、毎月報酬をもらうという契約を結びました。所得税において、この報酬は不動産所得か事業所得か、どちらでしょう?

 まず、「所得税法」を見ます。最初に目次のような見出しがあります。問題を対象とする条文を探すときはこの見出しから探すとわかりやすいのです。

 ところで、法律では大概の場合、1条に趣旨や目的をうたい、2条であらゆる単語の定義を説明しています。普通、言葉には色んな意味や解釈がありますから、法律において言葉の意味を明確にしておくことは非常に重要なのです。
 税務で問題が生じた際、2条の定義を精読することで済んでしまう問題も少なくありません。これは前提として知っておくべきことなので書いておきます。(例えば、青色専従者が控除対象配偶者になれるか否かという疑問は、所得税法第2条の第33号を見るだけで、否との答えが出ます。)

 さて、例についてですが・・・
 関連のありそうな条文を探します。第2編第2章の第2節第1款に「所得の種類各種所得の金額」という見出しがありますから、このあたりを見てみます。

第26条(不動産所得)
不動産所得とは、不動産、不動産の上に存する権利、船舶又は航空機(以下この項において「不動産等」という。)の貸付け(地上権又は永小作権の設定その他他人に不動産等を使用させることを含む。)による所得(事業所得又は譲渡所得に該当するものを除く。)をいう。
2 不動産所得の金額は、その年中の不動産所得に係る総収入金額から必要経費を控除した金額とする。

第27条(事業所得)

事業所得とは、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業で政令で定めるものから生ずる所得(山林所得又は譲渡所得に該当するものを除く。)をいう。

2 事業所得の金額は、その年中の事業所得に係る総収入金額から必要経費を控除した金額とする。


 第26条では、不動産所得が不動産の貸付による所得で事業所得以外のものであることがわかります。
下宿させているわけですから、不動産の貸付による所得だということもできます。問題は事業所得にあたるか否かという点です。
 そして、その事業所得は27条に書いてあるのですが、いまいちよくわかりません。また、「政令で定めるもの」と書いてあるので、政令すなわち所得税法施行令の方も見なければなりません。

 ということで所得税法施行令を見てみます。

 第2編第1章第1節第2款に事業所得(第六十三条)という見出しがありますから、その条文を探します。


(事業の範囲)

第六十三条  法第二十七条第一項 (事業所得)に規定する政令で定める事業は、次に掲げる事業(不動産の貸付業又は船舶若しくは航空機の貸付業に該当するものを除く。)とする。


一  農業
二  林業及び狩猟業
三  漁業及び水産養殖業
四  鉱業(土石採取業を含む。)
五  建設業
六  製造業
七  卸売業及び小売業(飲食店業及び料理店業を含む。)
八  金融業及び保険業
九  不動産業
十  運輸通信業(倉庫業を含む。)
十一  医療保健業、著述業その他のサービス業
十二  前各号に掲げるもののほか、対価を得て継続的に行なう事業

 第12号に「対価を得て継続的に行なう事業」とあり、これに当てはまる可能性があることがわかりますが、どうも自信がわきません。不動産を貸し付けているから不動産取得だと言えなくもないですから。税務署に突っ込まれたらどう応えるか。ということで、税務署が解釈の基準としている通達を見てみることにします。

 所得税法第26条と27条のどちらにあたるのか知りたいのですから、所得税基本通達の第26条関係と第27条関係を見てみます。
 すると、26−4に次のような通達がありました。


26−4(アパート、下宿等の所得の区分)

アパート、下宿等の所得の区分については、次による。

(1)アパート、貸間等のように食事を供さない場合の所得は、不動産所得とする。
(2)下宿等のように食事を供する場合の所得は、事業所得又は雑所得とする。

 今回の例は、食事を提供する下宿ですから、通達によれば事業所得(または事業のように継続してやらないのであれば雑所得)ということになります。もっとも、「通達」は法令と違って解釈指針に過ぎず、絶対ではありませんから、不動産所得になるべきもっともな理由があれば、それを主張してもよいかと思いますが、継続して行う場合に無難なのは事業所得ということが導けます。

 道のりは長かったのですが、実務事例集などを使わなくても、このように条文を辿るだけで答えに行き着くことができました。
 所得税を例に出しましたが、他の法人税や消費税についても同じような構造になっており、同様の手法で、適当な答えを見つけることができると思います。
 基本は、@必ず参照できるところは参照していく(例えば政令で定めると書いてあれば施行令までみるということ)、Aその法律しか出てこない単語は、必ずといっていいほど2条で定義してあるので確認する、ということだと思います。

 この手法にプラスして、実務事例集、Q&Aなどを使えば、より効果的になるのではないでしょうか。

 筆者も色々調べて、力をつけていければと思うのですが…。

(職員K)

   
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